全ての人の尊厳が認められる未来へ

特定非営利活動法人 なごみの里

現在地: Home > 関連書籍・文書 > 親愛なるあなたへ (1)

親愛なるあなたへ

島は日毎に風が強まり、冬の足音が聞こえてきています。

今、私は島根県隠岐郡知夫村というところで「なごみの里」という NPO 法人を設立し、働いています。島の宝である幸齢者様と共に生きる家で、よく「看取りの家」とも呼ばれています。私たちは、「高齢者」様を、幸いを届けてくださる方と言う意味を込めて「幸齢者」と書いています。

「もう近いかもしれんな。わしには分かる。あんたには世話になったな。真っ先に礼、言いたくてな」

今朝、なごみの里の利用者の一人である里さんから、そう言われました。私が「おはよう」と朝の挨拶をした時のことです。寝たきりでもう立ち上がることのできない里さん(現在 95 歳です)ですが、その言葉は私の胸にとても大きく響きました。

いつも死を明日に据えて眠りにつき、そして朝を迎える里さんの真の孤独が、若く健康な私達にどれほど分かることができるのでしょうか。ここを立ち上げてからというもの、私はいつもそう思っています。そして実際、きっと何万分の一もわかっていないのでしょう。過去、腫瘍の手術を受けた時に死と隣り合わせであった私でさえ、その時の緊張感を思い出すことが、今は全くできません。

戦争を越え、貧乏を越えながら、家族の為、社会の為、この国の為に懸命に生きた里さんの人生。

「正直ばかりで生きてきた。舅に姑に仕え、働きながら子供達を育て上げた。畑仕事が終わり、日が暮れてご飯の支度、片付け終えてほっとする間もない。眠い目をこすりながら風呂に入る。風呂から出た私をお舅さんが毎晩、呼ぶ。あれこれと用事を頼まれるが大儀でなー」

「長生きし過ぎたなー」

苦労を友に生きてきた里さんの人生。死のその時まで、やさしく、やさしく、やさしくと敬いながら寄り添い続けたい。そう思っていますけれど、どんなに尽くしても尽くしたりないほどです。

私は、人を愛するとは、限りある時間をその人に捧げることだと思っています。里さんが家族に、社会に、そしてこの国に捧げたほどにはできませんが、今、私は毎日の時間を里さんへ捧げて生きています。

里さんの今にわが身を添わしている時、穏やかな時の流れの中、実は里さんに癒されているのを感じています。愛を捧げるためにそばにいたいと思う私に、里さんの限りない優しさが惜しげもなく流れ込みます。人の存在とはこうしたものなのでしょうか。重なり合う里さんと私の温もり。この温もりこそが人として生きる証なのだと思います。

そして、この温もりを最期の時に周りの者達に手渡して逝く幸齢者様。私の愛する幸齢者様と重なり合いながら、今を輝く太陽の光の中で生きていこうと思っています。

たくさんの仲間の温もりの中で、親愛なるあなたにこの温もりを伝えたくて、書きました。私の稚拙な文章で、どこまで感じて頂けるかはわかりません。ですが、確かにここにはあるのです。私達がいつしか忘れてしまった幸齢者様とのあたたかい交流が。そして、人間としての温もりが。

いつかあなたにも感じていただけるだろうと、そう私は信じています。

ご意見・ご感想をお寄せ下さい

皆様からのご意見・ご感想が私達が明日を進む力になります。何かお気付きの点がありましたら、お教え下されば幸いです。皆様のご協力に感謝致します。(頂いたご意見の取り扱い方については「個人情報について」を参照して下さい)

(本文以外の欄は任意です)

名前: E-Mail:

職業: 年齢:

柴田久美子 講演予定

ショートカット

書籍紹介

看取りの手びき 介護のこころ

『看取りの手びき 介護のこころ』書影


©2008 特定非営利活動法人 なごみの里