全ての人の尊厳が認められる未来へ
トウテイランが海辺を美しく飾る。短い秋の訪れを感じる。正さんの部屋に近所の人が面会に訪れ、歩くことができない妹さんからの手紙を正さんに差し出す。手紙は、正さんの弟さんの死を知らせるものだった。
「おー。なんだや。あれが死んだとはなー。わしのところによー(良く)来てな。ほんになー」
そう言うと、正さんは肩を震わせた。そして長い沈黙の時間が流れた。
その夜、正さんの留守宅に喪服を取りに行く。服を揃え、仏壇に手を合わせる。手を合わせた後、仏壇から目を落とすと白いのし袋に弟さんの名前を見つけた。このお盆に、弟さんはこの仏壇にお線香をあげ、盆礼をあげたのだ。受け取る者がいないと知りながらのし袋を仏壇にあげ、一人手を合わせ祈る弟さんの姿を思うと、私は目頭が熱くなった。
正さんの部屋を訪れ、穏やかな海を見つめながら話す。
「元気な弟が先に逝って、歩けないわしが残るなんてな。なんぼでも代わってやったになー」そんな言葉の後、静かな時間が流れた。思い直したように、強い言葉が正さんの口から出る。
「新(息子)に心配かけんようにがんばるわな」
そして葬儀の日、車椅子をおし、弟さんの家へ。遺影はとても穏やかな笑顔を浮かべていた。車椅子のまま畳にあがり、弟さんと対面。線香を握った正さんの手は、小刻みに震えていた。そしてじっと遺影を見つめる。長い時間が流れる。同じ集落の漁師の一人が声を掛ける。
「じいさんや。もういいだろうが……」
耳の遠い正さんの耳には届かない。私は正さんの側に寄り、「もういい?」と声をかけた。正さんは動こうとしない。正さんの孤独と哀しみを知る私には、それ以上なにも言えなかった。声をかけてきた漁師さんにもう少しいる旨を伝え、頭を下げる。それからまた、長い時間が流れた。
夕方、私は窓の外の美しい三日月を見上げながら、正さんの傍に居た。風のように寄り添って、尊いその最期の時まで、これがなごみの里の歩き方である。苦しみを共に越えた時、また絆を深めたことに喜びを感じたものだ。それから毎朝、墓参りに行く道すがら、弟嫁が里に訪れる日が続いた。
真心が重なり合って生きていくことの尊さを教えてくれた幸齢者様に感謝、合掌。
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