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介護日記 (136) 〜抱きしめておくる〜

今日も島は凪いでいる。海に太陽の光がサンサンと注ぎ、美しく輝く。

そんな昼過ぎ、春さん (83) の元に行く。

認知症が酷くなった母を 1 人に出来ず、大阪から娘の恵子さんが帰って 5 年が経つ。出来る限り自分の力で母を看たいと言う恵子さんの言葉に感動を覚えながら、寄り添う私達。

歩く事が出来ない母を抱きかかえながら、共に足を交わす恵子さんの姿に親子の愛の深さを思ったものだ。

「私もそうだけど、母も甘やかすと直ぐ駄目になりそうでね」良くこう言いながら、頑張る彼女に教えられたものだ。そんな事を想いながら、海沿いの家に着く。

「良いとこに来てくれた。母さんの呼吸が変なんよ。夕べから口を開けたまんまで……。夕べは痰が切れんで、抱いてたよ」

その顔には昨夜からの疲れの色が見て取れた。

春さんは口を開けたまま、瞳に力は無く呼吸は弱々しかった。時間が無いことを、その澄んだ瞳の奥から、春さんは私に伝える。

私が「遠い親戚、呼んで」と言うと、恵子さんは私の言葉に動く。二人で冷たくなって行く手を摩り、顔を撫でる。体を摩る。そんな中で、私は「ありがとうございます。大丈夫」を念仏のように春さんに注いでいた。恵子さんがポツリと言う。

「母さん。父さんが迎えに来て会ってるよね」

そしてやがて春さんの呼吸は更に荒くなる。かすかに感じられる呼吸。

近所の親族を呼ぶ。そんな中で最期の大息を二つ。春さんは次の世界に旅立った。誰もがまた、もう一度息をするのではと思うほどにその死は穏やかなものだった。全てが終わり、ゆっくりとベッドを降ろす。

春さんの顔はとても美しかった。戸外に出るといつもの景色がことのほか、鮮やかに見える。そして全ての人々に感謝を伝えたいと思えるのだった。

自らの死をもって、縁あるものに生きる力を手渡した幸齢者様に感謝、合掌。

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