全ての人の尊厳が認められる未来へ
島は激しい雷が季節の変わることを告げる。今日は激しい雨と雷がなる。
「ばあちゃん。今日は雨がひどいね。静かだよ」手を握りながら、ゆっくり話す。静さん (89) は雨が大好き。戦争で若くして御主人を亡くし、女手一つで二人の子を育てあげる。実家の農家を手伝い、旅館の手伝いに行く。雨の日曜だけが、静さんの休日だったと言う。
「ばあちゃん。今日は風呂入ろうかね」
風呂嫌いの静さんはゆっくりとベッドの上に座る。にこやかな顔に穏やかな心と心をつなぐ。
その時、私の脳裏に菊さん (83) の顔が浮かぶ。こんな風に、菊さんを風呂にお誘いした時の事だった。握っていた手を離し、車椅子をベッドに寄せる。いきなり裸になられる菊さんに驚いた。
「どうして、お風呂で脱ぎましょう。廊下で誰かに見られると困ります」
菊さんは安堵したようにこう言った。
「あー。風呂で脱いで、良いんだね。良かった。本土の病院だと、ベットの上で裸になって、タオル巻いて風呂連れて行かれる。わしは恥ずかしいて、悲しいて堪らんだった。だから呆けたふりして、誰とも口きかんかった。そうせんと、自分を保てんでな。心はしゃんと別のところに置いて、体を任せとった。もうそんな事もせんで暮らせる。あー。安堵したわ」と言う菊さんを抱きしめた日の事を思い出す。
体を預け、介護を受ける身になられた幸齢者様の深い哀しみ、どんな環境にも負けず凛と生きる、そのお姿は何よりも美しい。体が器だとしたら、器ではなく、その中身こそが大切なのだと菊さんは言う。
心と心をつないで生きる事の尊さを教えた幸齢者様に感謝、合掌。
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