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介護日記 (150) 〜縁ある人に感謝して〜

島は今年も 8 月 16 日、早朝鈴の音とともにシャーラ船を流してお盆が終わり、秋風が立ちはじめた。

1 年に 1 度、人口 700 人足らずのこの島が帰省客であふれかえる。この時期がなごみの里も 1 年で一番面会者が増える。

元さんも唯一の介護者である船乗りの息子さん (54) が島に帰ると 1 年前から今か今かと待っていた。今年は学生のお孫さんも一緒に帰省。元さんの心は 1 年で一番華やいでいた。このお盆の間、歩いて 5 分ほどの自宅に帰り、仏壇に手を合わせ家族とともに何年振りかの団らんをとることを何よりも楽しみにしていた。「息子が明日は迎えに来てくれるよな、柴田さん」そう話していたその日だった。

突然息子さんは里を訪れるとこう言った。

「じいさん、今日帰るからな」

元さんは驚いて息子さんの手をとる。「健よ。明日は家につれて帰ってくれると毎日待っとったにな。お前だけが頼りだぞ。明日は帰れるよな」。テープレコーダーのように何度も何度も元さんは同じ言葉を繰り返し、涙した。その場に居た私は胸が引き裂かれるようでこみあげる涙をおさえきれず、その場を離れた。戦場の最前線で仲間の死をその目に焼付け、漁師をしながら凛と生きてきた元さん。奥さんを亡くし、重い障がいを持ちながら、一人息子だけを頼りに生きてきた。 1 年に 1 度、我が家に帰り仏壇に手を合わせることを楽しみに来る日も来る日も息子を待っていた。息子さんは生後 2 ヶ月で元さんがひきとり、当時まだ珍しかった粉ミルクで育てあげたといつも懐かしく話す。

息子さんが退室された後、元さんはずっと宙を見つめていた。

その後、私は元さんの手をとる。

「健さんも海外で働き、 1 年に 1 度、必ず帰ってこられるじゃないですか。元さんがここに居られるので、 1 年間お世話になった村の人に頭下げに歩いて周られたんです。忙しいから仕方ないですね。私と家に行きましょうか」と問うと、元さんは「誰もおらん家には行かん」と首を振った。

その後、ゆっくりと 2 人で海を見つめながら、来年のお盆を 2 人で待つことを約束した。人間としての豊かさとは温かい手を待ち望む人と時間を分かちあうことと教えた幸齢者様に感謝 合掌

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