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介護日記 (160) 〜笑顔の奥の悲しみが強さに〜

未だ木枯らしの吹く、寒い日だった。浮腫みが全身にまわり、食事が摂り難くなった伸子さん (93) を検査の為に村の診療所にお連れする。先生は嫁の友子さん (60) と私に淡々と告げる。

「村の検査機械ではこれ以上は調べようがないですね。癌が全身にまわっているかもしれませんが、わからないですね。本土に行き、もっと調べますか? ここでは医療的には何もする事がないですね」

本人に確認するが、

「いいや。わしは、もうどこにも行かん」ときっぱりと否定される。

この日から私達は、明日こそは、明日こそはと希望だけを見つめて添っていた。

伸子さんと出会ってもう 12 年。村のホームヘルパーとして働いた頃からの付き合い。全盲で寝たきりのだんな様を、農業をしながら 1 人介護なさっていた。訪問に行くと農作業の手を休め、その真っ黒に日焼けした手で必ずコーヒーを入れてくれた事が、昨日のように思われる。

そんな中、伸子さんの 1 人息子が病に倒れる。両親を案じ、父を隣の島の特別養護老人ホームに送る。私は今も、別れの日の伸子さんの悲しい表情を忘れる事は出来ない。最愛の息子との死別、そして夫との別れ。じっと耐えながら、伸子さんは心を強くなさったのだろう。

受診の翌日から、朝のご挨拶の度に私に言う。

「柴田さんや。わしは元気だ。ご飯をいっぱい食べれる」

実はほとんど食べてらっしゃらないのだが、この言葉を実に死の前日まで凛として言い続けられた。

伸子さんの入居の日、「親の無い私。子の無い伸子さん。伸子さんは私のかあさんだから、何でも言ってね」と抱き合って泣いて 3 年が経つ。

「あんたにありがとうは言わんよ。親子だもんね」

そう言った伸子さんが死の前日、「ありがとう」と手を合わせてくださる。

死を覚悟しながら、笑顔で微笑む伸子さんのお姿。数々の苦しみが人を真の強さへと導くと教えて下さる幸齢者様に感謝、合掌。

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