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介護日記 (161) 〜命のバトンを手渡して〜

美しい海にトンビがキューンと鳴きながら宙を舞う。

伸子さん (93) が水分すら受けつけなくなって 2 日が経った。

「どうですか?」

「元気だ。先生、呼ばんで良い」いつも凛と答えられる。

全身浮腫みが酷い。ほんの 2 日前までオムツでは排尿出来ないと、 2 人掛りでポータブルトイレまで移動、排泄をなさる。だがオムツにすると、なぜか安堵されたかのように、オムツ内で用をなさる。

お傍にいながら、沢山の思い出を語り、お身体をさする。翌日お看取りの部屋へと移動する。障子越しの日の光はいつか見た光と同じだった。それは、父が「ありがとう」と私の手を握り旅立った日の光。

伸子さんの死の前日、この日も、私との会話は変わらない。

「元気だ。心配せんで良い」

若いスタッフもベッドの周りに座る。足元に 2 人。頭元に私ともう 1 人。 4 人で身体中を擦る。どれほど時間が流れた事だろう。その夜は唯一の介護者のお嫁さんにお泊り頂く。

翌日、昼 2 時。伸子さんの瞳が澄んでいく。

まるで、生まれ落ちたその時のように透明に光る。時間が無い、そう感じた私はお嫁さん、親戚の皆様を呼ぶ。皆に手をとられ頬ずりされる伸子さんの笑顔は、美しかった。 3 時 15 分。大きな息を一つして、皆に囲まれて、伸子さんは次の世界へと旅立った。当時、村は無医村。隣の島の先生が島に到着するまでの時間、私達は伸子さんとの別れをする。

温かい伸子さんの身体にありがとうを捧げながら、みんなで擦る。冷たくなる伸子さんの身体に私達の温もりを捧げる。若いスタッフは伸子さんの死を通して、生きる力を手にする。

「死は怖いと思っていたのに、感動なんですね。とても清らかで」と涙した。私の目に知夫の海が鮮やかに美しく映る。そして、私は全ての人々に感謝した。

私達の前に、その身を差し出して死を教えた幸齢者様に感謝、合掌。

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