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介護日記 (168) 〜共感する事の尊さ〜

立春も過ぎたにもかかわらず、ちらちらと雪が舞う。なごみの里の手作りの看板が嵐の中でバタバタと音を立てる。

「ゴネゴネすな(ゴチャゴチャするな)」と威勢の良い元さん (93) の大声。

オムツを替えさせて頂くスタッフに向けられたものだ。

「大変だったね。これからの人生でどんな人に怒られても大丈夫なように、元さん、悪人演じてくださってるのね。でもごめんね」と詫びる私に、若いスタッフは涙を見せる。

若き日に戦争に出向き、戦地で死んだ振りを戦友としたと言う。隣で少し動いた戦友がグサッと音を立てて刺された。あー、次は自分だと覚悟した時の話を何度もお聞きした。戦争を経て、世界中を船乗りとしてまわり、老いるまで漁師をしていた、元さんの誇り。

そう簡単に自分の老いや、ましてオムツを受け入れる事など出来ようはずもない。 2 年程前から、ベッド上での暮らし。便意はなく、パンツをオムツの代わりに切断しながらの対応。それほどまでに、オムツを拒んできた元さん。

散々、若いスタッフを怒鳴った元さん。一人タバコをくわえて、海を眺められる。いつものように、ベッドの隣に腰を下ろし、元さんの背を摩る。いつもと違い、元さんの目は潤んでいた。言葉もなく時が流れる。しばらく摩っていると、いつものように「もう、いいよ」と一言。いつもの笑顔を向けた元さん。

元さんのお部屋を後に、ふと、俵万智さんの短歌を思い出す。

寒いねと、話かければ寒いねと、答える人のいる温かさ

家族のようにただ共感するだけだ。共感することの尊さを教えた幸齢者様の感謝、合掌。

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