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介護日記 (177) 〜尊い時間の中で〜

島はトウテイランの紫の花が秋風に揺れる。

開所してまもなく隣の海士町から入所された静さん (92) が発熱し、食事を摂られなくなって 1 日。静さんに寄り添い、手を握ったまま静かな時間を過ごす。お元気なころは炊事の後の私の手を「冷たい」とよくはねられたものだが、今はふっと眠りにつかれても、離そうとなさらない。ふと目を覚まされ、不安そうに見つめられる。「大丈夫です。ずーっといます」とにっこり微笑む私に、大きく頷いて目を閉じられ、優しい笑顔を返される。

愛おしさがこみ上げ、ふっと涙が流れる。命がけで笑顔を返して頂ける幸せ。ずっとずっと、この愛の時間が許される事を願いながら、回復を祈る。

翌朝、少し熱が下がられた静さんに、ゆっくりとお昼をお勧めする。ずっと握りしめていた手を離して、口もとにスプーンを運ぶが、直ぐに目を閉じられる。ご家族様にお知らせし、泊り番をお願いする。障がいがあるご長男の代わりに、ご長男のお嫁さんが夜、静さんのおそばで過ごされる。日を経るごとに静さんの目がどんどん澄んでいく。そして次の日から、ご家族様、スタッフと共に静さんに寄り添い続けた。

その日、静さんの瞳が美しく澄んで閉じることがなくなる。もう 2 日、開いたまま。見えるものも見えないものもしっかりと見ていたいというのだろうか。何度も「ばあちゃんばあちゃん(本人希望で入所の時からこう呼び続けて 7 年)」としっかりと手を握り、さすりながら呼びかける。ばあちゃんの手は燃えているかのように熱かった。

そして、食事が取れなくなって 4 日目の夜、ご家族と私が手を握り、さする中で荒い呼吸を終えると、微笑んで旅立っていかれた。

静さんは最期に一筋、愛の涙を流される。その愛の深さに、その光景は美しく輝いていた。ご家族とともにお身体を拭き清め、船を待つ。そして迎えに来た船まで、ゆっくりと抱きかかえていった。

死は誕生と等しく生きる力の高まる時、私たちに命のバトン(良い心と魂)を手渡す尊い時間であると教えた幸齢者様に感謝、合掌。

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