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介護日記 (206) 〜温もりを手渡して〜

大根の花がやさしい春の風に揺れ、希望を伝えます。

10周年記念講演会を終えた翌日、14年の月日を共にした玄さん(97歳)の旅立ち。早朝5時半、異常無し。7時45分、心不全による突然のことだった。思えば玄さんがなごみの里に来てくださった日、まず家の仏壇から奥様の遺影を抱えてこられた。あれから、日々の暮らしの中で沢山の出来事があった。

若き日に戦争に出向き、戦地で死んだ振りを戦友としたと言う。隣で少し動いた戦友がグサッと音を立てて刺された。あー、次は自分だと覚悟した話を何度もお聞きした。戦争を経て、世界中を船乗りとしてまわり、老いるまで漁師をしていた元さん。

そう簡単に自分の老いや、寝たきりの暮らしを受け入れることなどできようはずもなく、初めてオムツを受け入れてもらうまでに2年を要した。便意はなく、パンツをオムツの代わりに切断しながらの対応。それほどまでに、オムツを拒んできた元さんだった。

機嫌が悪いと若いスタッフを怒鳴る。そして一人タバコをくわえて、海を眺められる。玄さんが孤独な夜、私はいつもベッド上で隣に腰を下ろし、元さんの背を摩るのが常だった。耳の聞こえない玄さんと私の間に会話はなく、それでもそこには肌の温もりがあった。ふと気づくと何時間もたっていたものだ。いつも「もう、いいよ」と一言、玄さんの穏やかな声を合図に傍を離れた。唯一の話し相手の実弟が他界した日も、ほぼ半日、玄さんの隣で温もりを感じていた。

俵万智さんの短歌を思い出す。

寒いねと、話かければ寒いねと、答える人のいる温かさ

家族のようにただ共感すること、そしてその奥にある温もりの尊さを教えた幸齢者様に感謝 合掌

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