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看取り士日記 (270)  〜時を慈しむ〜

蝉の声が希望を呼ぶかのようで、青空がぬけるように明るい。

暑さの中、ほとんど言葉を交わすこともなく相談者の女性と道を急ぐ。

古いアパートに辿り着き玄関を開けると直ぐに台所。

台所の脇に布団が敷かれている。その脇に忙しく扇風機がまわる。

白い花柄のパジャマ、色白の78歳のお母様。

胃癌の末期、余命三ヶ月との事。

「良く来てくださいました。大丈夫です。娘が心配してくれるんですが、まだまだ」

依頼者は遠方に嫁いだ娘さんだった。自らも病を持つ身。

もう一部屋、奥のふすまの向こうにも布団が敷かれている。障害を持つ息子さんが休んでおられた。

「柴田さん、私がここで息子と一緒に居ることが、一番幸せな事です。母親ですから」と、とても強く凛とおっしゃる。

失礼ながら、狭い暑いお部屋がお身体に良い環境とは言えないが、彼女にとって息子さんと暮らされる一日一日が宝物なのだろう。小さなお部屋の中には親子の愛があふれている。

息子さんの手作りと言われた薬のカレンダーがお母様のお部屋の壁、一面に掛けられている。「薬を飲み忘れないようにと作ってくれました。大きいですよね。これなら忘れようが無いですね。大丈夫です。薬を飲む度に息子の想いを一緒に飲みます。きっと良くなります」

近くの無償ボランティアエンゼルチームの派遣をお約束して、帰路についた。愛する者と過ごす時間は永遠に続かない。息子さんとともに過ごす時間を慈しむお母様が輝いてみえた。

真の豊かさとは時を慈しむ暮らしの中にあると教えて下さった利用者様に感謝 合掌

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