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看取り士日記 (272) 〜魔法使いになって〜

太陽の光がまばゆい程に呼びかけ、山々が美しく色づき始める。

そんな中に、一本の電話が入る。

「私は死にたくない。子供達の為に。お願いです。助けてください」

まるで何かに怯えるかのような声だった。癌末期、腹水がたまり、歩けないほどの恵子さん(38歳)。

毎日、胎内体感を進める中で「私より小さな母が、毎日赤ん坊を抱くかのように私を抱くのです。何だか恥ずかしいけれど嬉しくて」と恵子さんが笑う。

旅立ちの前々日には、集まった子供たちひとりひとりをベッドサイドに呼び 「お母さんは、魔法使いになっていつでもあなたたちのそばにいるから大丈夫!あなたたちは、大丈夫!」と伝える。

そして旅立ちの前日、彼女は、「眩しいほどの光に包まれています。眩しすぎてカーテンを閉めたほどです。それでも光に包まれています。今は亡きお父さんの姿がはっきりと見えます」と言う。

そして翌朝、ベッド柵を外し、彼女を抱き起こしご主人にベッドへ座って頂き膝枕をして頂く。お母様とお姉さまもベッドサイドへ。

すると、ピンと張り詰めた空気から一転。3人ともうわぁーと泣きだし「よく頑張ったねぇ」などとお声かけしながら涙を流される。

ご主人は、奥様の頬を撫でながら「ずっと一緒にいようなぁ」と。

背中に触れ、温もりを感じ頷くお兄ちゃんたち。

「お母さん、ありがとう」

そう言って伝えたとき、恵子さんの表情はさらに穏やかなものになった。

この間、3時間ほど、ご主人はずっと膝枕をしたままだった。

そして告別式、5人の子供のうち4人の男の子は「お母さんありがとう」と口々に言う。最後に、小学校1年の女の子が「お母さん、大好き!」と呼びかける。告別式にお越しの皆さんの涙があふれだす瞬間だった。

空気は晴れやかに澄み渡り、まるでお母さんがそこにいるかのようにあたたかい時間だった。きっと魔法使いになって彼女がそこにいたのだろう。

相手の存在をそのままに、足す事も引く事もせずに、今の相手のままに丸ごと愛する事が命に向き合う事と教えた彼女に感謝 合掌

担当看取り士 大橋尚生

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