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看取り士日記 (276) 〜もうひとりの家族〜

寒さの中、愛らしく咲く雪柳の白い花に見送られて、現場へと急ぐ。

暖かい居間に健さん(66歳)のベッドがあった。寝室ではなく家族が集まる居間にベッドが置かれている様子に、まずはご家族の温かさを感じて安堵する。すい臓がんの告知から5か月。最期まで自宅でと本人の強い希望でかかりつけ医、訪問看護師さんとの体制が整った翌日、私は訪問した。

居間の本棚にも、私の著書が何冊も並んでいた。その本を見ながら、奥様が「この本が私たちの頼りです」と微笑まれる。

「柴田さん、昨夜は40分間痛みが消えなかった。早く死なせてくれと叫んでしまったよ。でも今は全く痛くなくて幸せだね。 こんなにたくさんの方々が私の周りに集まってくれて、私のために世話を焼いてくれるなんて、なんて幸せ者だろうね。もしかすると、僕が死んだらまだ若いからと同情する人たちがいるかもしれない。でも僕は全部すべき事はした。

今は死ぬのにちょうど良い。『良い人生だったね』と言って欲しい。柴田さん、看取り士さんはもうひとりの家族だね」

幸せと言う言葉を連発し、周りの私たちも幸せの中に連れて行ってくださる。

愛犬はベッドの上で尾をちぎれるほどに振っている。彼の瞳の輝きがますます美しくなっていく。

うっすらと涙目の奥様に微笑みが戻る。

「柴田さんが26年をかけてしたかったこと、僕は今やっとわかったよ。最期はみんな幸せで旅立っていくということだよね。がんばってね。妻と出会って、僕の言うことを全て受け入れてくれて、僕は幸せだよ」

その笑顔が最高だった。死が訪れ、それを受け入れた後に来る悟りの境地。私たち看取り士とって現場で「死」は禁句だが、本人の口からこれほどまでにイメージが作られ、完成させられている潔い場面に立ち会ったのは久方ぶりだった。

幸せは伝染するもの。そんなふうに教えてくださった健さんに感謝 合掌

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