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介護日記 (118) 〜瞳の奥の希望〜

島で始めての冬を迎えた新人職員さんが驚いて言う。「日本海の荒波って恐ろしいほどですね」そんな波がなごみの里のすぐそこにある。

そんな中ほんの 1 ヶ月程前まで里に居らした貴代子さんの訃報を聞く。元気な頃、雑貨商を営み、和服を着こなす上品な貴代子さんは笑顔の澄んだ人だった。パーキンソン病を患い、医療に頼らない決断を自らし住み慣れた沖縄を離れる。娘さんの住むこの島に着いた時、すでに病は進み痴呆症状も出ていた。

「私は 7 年間、夫を病院で看ました。夫は家に帰りたいと口癖の様に言い続けました。私は病院で暮らしたくはありません。ここに置いて下さい」

その真剣な表情に驚いたのは、半年前の事だった。子、孫が面会に来ると決まってこう言ったものだ。

「あんた達もここで泊まって行きなさい。良い所だよ」

それ程までに里の暮らしを楽しんでいた。

だが病気は楽しい日常を許さない。食事は刻みからミキサーで砕いた物に変わり、寒天でトロミをつけた物に変わる。それでも 1 回の食事が飲み込み難く、食事の時間は 2 時間にも及んだ。会話もでき難い状態が訪れる。母子家庭で店をする子、孫は代わるがわる食事の介助につく。そして夜、店が終わると貴代子さんのベットの下で床をとる日が続いた。

そんなある日、いつもの様に私は貴代子さんと話をしていた。

「食事も入らないし、もう一度病院いかれませんか?」「そうね。行ってみようかね」

何時に無くはっきりした言葉に驚いた私に得意の笑顔で首を竦めた。

そんな会話の後、突然の呼吸困難、顔面蒼白。私は村の診療所に連絡。貴美子さんは家族とともに救急車に乗り込まれ、再び里に戻られる事はなかった。娘さんは良くこんな事を言っていたものだ。

「お母さんは愛する孫たちに病を得ても、負けずに凛と生きることを教える為に今を生きていると言いました。立派です」と……。

自らの肉体を周りの者の為に使う事こそ生きる意味と教えた幸齢者さまに感謝、合掌。

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