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介護日記 (129) 〜今日が全人生〜

海が荒れ、島に冬が舞いおりたかのように冷たい朝が来た。

なごみの里の中には、赤々としたストーブが燃えさかる。こんな寒い日は、笑顔の幸齢者様にほっとする。

玄関先に近所の方の声がする。先日、母を看取ったばかりの和さん (68) だった。

「柴田さんは、看取りをする度にいつもこんな風に心に穴が開くんですね。私は病院で二ヶ月付き添いました。最期の時も兄弟が、皆帰った後に、私独りの時でした。たまたま帰ろうとする私に夫が「居なさい」と声を掛けたんです。その一言があったから、死に目に会えました。良かったです。本当に目には見えない物、たくさん貰いました。柴田さんなら分かって貰える、そう思うと嬉しくてね。ばあちゃんが死んで、直ぐに電話しようと廊下をうろうろしてんです。そうしたら看護婦さんが「今はずーと傍に居てあげて下さい。病院が連絡しますよ」そう声かけてくれたんです。どうして良いか分からない私は、本当に救われました。有難かったです。ばあちゃんとゆっくり手握って、別れることできました。満足です」

関を切ったかのように話す和さんだった。私にいつも優しい言葉をかけてくれた菊さん (97) の姿が和さんに重なる。この年代のだれもがそうだが、菊さんもまた戦争を越え、女手ひとつで子供達を育て上げた。男衆に混ざり土方仕事に精を出す日々。自分の体重より重い石を運んだ時の話。土方の大将に怒鳴られた時の話。時間が経つのも忘れて聞きほれたものだ。

「いろんな事があった。でも今は娘達が大事にしてくれて、わしは幸せ者だ。明日、お迎え来ても悔いはないよ。今日がわしの人生の一番良いときと毎日おもっとるよ」

自らの死を明日に据えて、いつもこう言うのが口癖の菊さんだった。

毎日、「今日が全人生」と今を感謝の思いで生きていく事こそが幸せを手にする事と教えた幸齢者様に感謝、合掌。

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