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介護日記 (130) 〜人は皆、良心を持つ神仏の使い〜

島は朝から雪が舞う。里の中ではストーブの上でヤカンの湯が沸く。朝、いつものように、幸齢者様に挨拶する。

「あんたに言っとく事がある。まあ、聞いてくれ。わしはもう長くないな。どうも片方だけ見えてた目がみえんようになった。どうも近いようだ。誰にも言わんで良いが、あんたには世話になったな」

そう言うと里さん (97) は握っていた私の手をぐっーと自分のほうに引き寄せ、私を抱いた。里さんの体を抱きしめる。私の腕に、ふんわりと温かみが伝わる。

「分かったよ。本土に出たら、目の神様、一畑薬師に代参しますから。待っていて下さい」

里さんの目から、涙がこぼれた。寝たきりの里さんは「目が見えなくなると死が近い」と元気な頃に聞いた事があると言う。

次の日、雨の中、一畑薬師に代参。長い階段を息を切らして登る。そう言えば幼い日、今は亡き父母に手を引かれて、長いこの階段を登った日の事を思う。冷たく雨に濡れた私の手に、今は亡き父母の手の温もりが甦ってくる。

濡れる私に、傘をかそうと声を掛けたバスの運転手さん。バスを待つ間、コタツにどうぞとすすめた御茶屋の女性。電車待ちの間、ストーブの前の自分のソファーを空けてくれた駅長さん。この人々は里さんがくれたご褒美なのだと感じる。

里に帰ると里さんは、

「あー。薬師さんに行ってくれたか。だから良く見えるようになったと思った。良かった。これで命拾いしたよ」

大事そうにそのお守りを手に挟んで合掌された。里さんの顔は、満足そうだった。

今日も里さんのベッド柵に薬師様のお守りが揺れる。出会う人々は皆、良心を持つ神仏の使いと教えた幸齢者様に感謝、合掌。

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