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介護日記(139) 〜最期の時まで失わない物〜

「わしは何でも忘れてな……。」と今朝も元さん (96) が言う。昨日、顔を見に来てくれた息子さんの話をするが、覚えてないと言う。

「私も良く忘れます。でもね。忘れないと生きていけないかもしれないですよ。私なんかも、失敗しても忘れるからこそ、またその人の前に立てるんかね。ずっと覚えとったら、私なんて恥かしくて、生きていけんですよ」

「そうか。あんたも忘れるか。年も忘れられたらいいな」

「まー。私の方が元さんより少しはましだから、元さんの分も覚えとくようにするね」

「頼むな」

そう言いながら、手を握ると元さんの皺だらけの手の温もりに私の心がやわらかくなる。その手を通して元さんの心の温もりが流れてくるかのようだ。 96 年もの間、正直に生き、沢山の愛を注いで生きた元さんの温もりには、熱い程の生きる力があった。認知症で寝たきりの今、訪れる人もほとんど居ないが元さんの輝きは日毎に増しているように私には思える。私は元さんの手を握りながら、こんな言葉を思い出していた。

「人間は最期の瞬間まで向上心を持ち続けるものだ」いつか読んだ本の中にあったが、幸齢者様のお看取りをする度にその思いを深めている。死の高い壁の前に佇む孤独。認知症と言う症状の中での将来についての不安。自らではとめようのない恐怖を受け入れる日々。

それでも懸命に、人に迷惑をかけないようにと自分を奮い立たせながら生きる元さん。今日も元さんのこんな言葉が私に勇気をくれた。

「さー、良い朝だ。良い日と信じて、頑張ろうね。有り難い。有り難い」

生きる力を惜しげなく手渡す幸齢者様に感謝、合掌。

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