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介護日記 (144) 〜手の温もりを渡して〜

島は凛と冷たい風の中にも、海に落ちた太陽の光が私の心を弾ませる。私はこの季節が大好きだ。

昨日まで止まっていた 1 日 1 便の本土とのフェリーがやっと今日は動き、大きな波の揺れすら何とも心地好く感じながら、島に夕刻戻る。

もう遅い時間なので、幸齢者様には明日、戻った事をお伝えしようと食堂に居た私を、職員さんが呼ぶ。

里さん (97) が私に用があると。駆けつけると手を握る。息は荒く苦しいと言う。

「もう逝く。なー。そうだよな。逝く時は逝かせてくれ。世話になったな。太郎呼んでくれ」

苦しそうに喘ぎながらも、里さんは懸命に手に力を込める。最近、私が本土に出かけ戻った時にこうなる。 97 歳。死の孤独は日に日に増している。「みんな 97 歳にならんとばばのこの気持ちなんぞ、ほんとには解らん。一生懸命、口にせんように耐えとる」里さんの口癖だ。だが、こう聞く度に私には里さんの埋めようのない孤独を感じるのだ。

里さんのおでこに私のおでこをくっつけて肩を抱き、手を握る。

「大丈夫。大丈夫。一緒に大きな息しましょう。いーち。にーい」

長い長い時間のように思えたが、新しい職員さんは震え、目には涙すら溜めながら、その光景を見守っていた。その内、里さんの呼吸は穏やかになり、平安が戻る。

翌日、元気な心を取り戻した里さんはこう言いながら、私に微笑んだ。

「いつまで息があるか解らんに、今楽しい心にならんとな。昨夜はすまんかったね」

今という時間を大切に楽しく生きることこそが生きる意味と教えた幸齢者様に感謝、合掌。

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