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介護日記 (156) 〜旅立ちの後の温もりに〜

既に一日一便のフェリーは出港し、小船を乗り継いで本土へと渡る。私は道々「大丈夫。大丈夫。生きていて」と念仏のように唱えていた。島根から福岡までは、どんなに急いでも小一日がかかる。

病院に着くと、まだ若いの子供達が心配そうに、彼女の傍らにいる。

「良かった。来てくれて」友は私の顔を見ると安堵したかのように、手をとり喜ぶ。そして「抱いて」と私の顔を抱き寄せる。

「大丈夫。もうあなたの思う通りになるよ。あなたには神様と同じ力があるんよ。思うように祈りなさい」そう声をかけて抱きしめる。

闘病中、私達は言葉の力を信じ、子供達と共に、彼女の健康を祈った。言葉の薬と呼びながら、いつも希望だけを見つめていた。

夜半過ぎ、友は高熱の中、荒い呼吸にあえぐ。私は腕の中の友の呼吸に自分の呼吸を合わせる。そして私の呼吸を彼女に渡す。 10 分経ち、 20 分経つと彼女の呼吸は穏やかになる。そしてそのまま、数分後、彼女は私の腕の中で逝った。

「あなたがいて良かった。ありがとう」この言葉が最期の言葉となった。

傍にいる子供達に声をかけるように言う。

「おかあさん」「おかあさん。ありがとう」「おかあさん。まだする事があるよ。逝かないで」

口々に言いながら、母をさする。

その後、静かに医師を呼ぶ。

「 2 時 29 分ですね」そう一言いい退室。この時から朝まで、私達だけの時間。

「お母さんの温もりを感じて」そう声をかける私に子供達は長い時間、温もりの残る場所を探しながら感じ続ける。「柴田さん。お母さん。まだ脇の下に温もりがある」そう微笑んだ娘の顔が友の顔に見えた。

一番下の娘が言う。「私は、死は怖いと思っていた。お母さんが死んでも、こんな風に触れるなんて思ってもみなかった。柴田さんがいてくれて、そうするように言ってくれたから、触れて感じることが出来た。本当に良かった。死ぬって怖いものではないんですね。ありがとうございました」

冷たくなっていく友の体に自分の温もりを伝えながら、朝を待つ。

温もりも冷たさも、命がけの友からの贈り物。命のバトンを体で受け止めることが看取る者の務め。人間として命のバトンを次の世代に伝え、立派に逝った友に感謝 合掌

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