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介護日記 (203) 〜温かい手を差し出して〜

雪をかぶった椿の花を手折り、元さん(96歳)の奥様の遺影の前に飾る。

昨日電話でご相談を頂いた芳子さん(88歳)の家に、長靴を履いて出かける。

介護者は、長距離トラックに乗り、2日に一度帰ってくるご長男。そして、近くに住んではいるが、精神を患い、芳子さんの元に行くのは難しい娘さん。

その娘さんに案内をしていただき、玄関を入ると、すぐに台所。その台所の奥で、芳子さんは布団で休んでいらっしゃった。

私がご挨拶をすると、芳子さんはぽつりと「この家にいたいんだがなあ」と言われる。「みんながそれでは困ると。困ったなあ」そう言葉を続けられる。私は手を握りながら「芳子さんのお気持ちが一番です。大丈夫です。よくみんなと話し合いますから、安心して下さい」そうお伝えして、娘さんに振り向く。娘さんの顔は、明らかに暗かった。すぐに「お母さん、話が違うわ。なごみの里に行くって納得したじゃないの。それなのに……困るわ」。そう声をあげられた。

私はすすめられた桜茶を飲みながら、ゆっくりと娘さんに向き合う。全盲と言う障害を持ちながら、懸命に誰にも迷惑をかけないようにと生きていらっしゃる芳子さんのことを、哀しいとさえ思えた。長い時間、話し合い、私どもにはボランティアでお傍にいるエンゼルチームというものがあることも説明する。

この国は、一人暮らしでは寝たきりになると自宅にいることが叶わない国であることを実感する。尊厳(自分で決める権利)が守られる国になるために、活動を広めていかなくてはと心を新たにし、雪道を帰った。

先日読んだ本の中に、「暮しの手帖」編集長、松浦弥太郎さんが書いた文章が私の頭の中にかけめぐる。

たまに自分が死ぬときのことを考える。死ぬときはどうありたいかと。

場所はどこでもいい。そして一人でいいから誰かにそばにいてほしい。息絶える最後まで僕の手をずっと握っていてほしい。手を握ってくれるのが妻か娘だったら、そんな人生の終わり方は最高にしあわせであろう。

人の愛し方は一言で言えるものではないが、僕にとって「あなたを愛している」という唯一の表現は、相手の手を握ってあげること。手を繋いであげることである。何かをしてあげるという言い方はおかしいけれども、自分の手で相手の手をあたためてあげる。たくさんあたためてあげたいと思う気持ちが、「あなたを愛している」という言葉の代わりだと思っている。

障害を持ちながら懸命に生きる芳子さんの幸せを、心から降る雪に祈る。その身を通して愛することを教えてくれた幸齢者様の真心に感謝 合掌

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