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介護日記 (205) 〜自分の花を咲かせて〜

つくし、ふきのとうが春を告げる。  

和子さん(54歳)、昨年春に皮膚がんを発症。緩和ケア病棟に入院。私が出会ったのは死の一ヶ月前だった。看取りボランテアであるエンゼルさんが彼女の友人で、最期を看取りたいと強く希望された。最初にホスピスを訪ねると、初対面にもかかわらず、色白の美しい和子さんはたいそう私の面会を喜んでくださった。

病室に次々と友人が訪ねるほどに、人の縁を大切にする人だった。未だ30代の娘さんは仕事を辞めて和子さんの傍らにいた。ロビーにベッドごと出られた際に、私は太陽色のオレンジの毛糸を手渡した。

その昔、死を前に動けない母親と子供達が、母が寝る前に手首にオレンジの毛糸を結び「何かあったら呼んでね」と親子の魂と魂を結んだと言う。そんな暮らしの中の文化を彼女に話す。楽しいと彼女は笑みを浮かべ、そして点滴台にお守りのように結ぶ。その後、私達は“青い山脈”を合唱。それを見ていた車椅子の男性が私達の傍に車椅子を移動。その方を交えて楽しい時間が流れた。車椅子を押す私に男性患者は言う。「淋しくて、淋しくて」。死を前にどれほど孤独か、私には言葉もなかった。

そして和子さんはいよいよ、面会を断るようになる。旅立ちの前日がちょうど面会の約束の日だった。ホスピスで今日か明日かと言われながら、私を待っていてくれた。面会に行くと、彼女の手首にはオレンジの糸がしっかりと巻いてあった。すでに彼女の呼吸は乱れていた。

「もう和子さんは神仏と同じ力があるのよ。大丈夫。あなたの想い通りになるのよ」

そう言いながら手を握り、肩を抱く。にっこり微笑む彼女の瞳は、深い海のように澄んで光っていた。すぐに息子さんにも連絡。彼女は最愛の子供達に両手を握られて、安らかに旅立っていった。和子さんらしい花を咲かせて。

最期の幸せこそが人生をプラスに変えることを教えてくれた和子さんに感謝 合掌

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